日本語教師わかばの教え方がうまくなるブログ

日本語教師わかばのことばにまつわるあれこれ。ライターもやってます。旅行と映画と本が好き。

映画レビュー【12ヶ月の未来図】学ぶことの意味を問う良作の感想

フランス、パリ郊外。

移民・貧困・学力低下……そんな教育問題をテーマに

撮られた映画があります。

2017年のフランス映画です。

 

12ヶ月の未来図」原題:Les Grand Esprits


『12か月の未来図』予告編

 

以下の記事はネタバレあります。

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勉強大好きなエリート教師、底辺校へ

主人公フランソワはパリの進学校で働く教師です。

どこか偉そうです。映画はテストの返却シーンから。

点数とともにコメントをいうんだけど、

そのコメントが厳しすぎるんです……

私ならやる気無くしそう。

https://iwiz-movies.c.yimg.jp/c/movies/pict/c/p/ee/55/366543_001.jpg

ちょっとした教育者の会合で、

底辺校のことが話題になった時、

「底辺校にこそ、ベテラン教師が行かないとね」

と言ってしまったことから、

まさかの展開で自分が行く羽目になってしまったフランソワ。

 

日本でいう「御三家」みたいなところで教えてたのに、

一気に公立底辺校へ……

クラスの大半は移民で、勉強なんてやる気がなく、

めちゃくちゃ態度も悪いので、

フランソワは血管切れそうになってます。

 

これはフランス人の友人から聞いたのだけど、

パリ郊外は移民が多いそう。

この辺りの学校からでも大学に行けるように、

「枠」が用意されているのだけど、

分母に対して、その「枠」の数はとても少ないので、

ほとんどの人がちゃんとした教育を受けていないと

その友人も言っていました。

 

おやつ会でハイになるケーキを食べさせられる

期末テストが終わったら「おやつ会」したい

という学生に

「なに言ってんの?幼稚園ちゃうねんで!」

というフランソワでしたが、

なんだかんだで「おやつ会」させられることになります。

そこで、学生の持ってきたケーキを食べますが、

その後、倒れます。

そのケーキはハイになる葉っぱ入りだったのです……

 

考えられないことの連続で疲れ切ったフランソワ。

そんな折、日本に行っていた妹に会います。

 

https://iwiz-movies.c.yimg.jp/c/movies/pict/c/p/33/f7/366543_006.jpg

 

妹は兄フランソワにこう言います。

「みんながみんな勉強が好きなわけじゃない。

 失敗したら、やる気もなくなる。

 自分がバカだって思ったら、人生どうでもよくなる」

という風に言われて考え直します。

 

まず教師が変わる

とりあえず、教材を決めるフランソワ。

フランソワ渾身の授業はなんと「レ・ミゼラブル」の味読

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 レ・ミゼラブルもヴィクトル・ユゴーも知らない学生たちに、

学ぶとはどういうことが、

食べ物を食べないと体は死ぬ。

 本を読まないと魂が衰える

と、誰かの(忘れた…)言葉を引用しながら、

学生たちに学びの火をつけようとするフランソワ。

 

「やってみようかな」という気になったところで

「はい、これ君の栄養ね。しっかり大きくなろうね」

と言いながら教材を渡すシーン。

私はこのシーンが一番好きです。

 

社会の先生とコラボして校外学習へ

 

ディクテーションのテストも「レ・ミゼラブル」からにして、

とにかく、「レ・ミゼラブル」を中心に授業が進んでいく

フランソワのクラス。

 

登場人物の紹介を発表させたり、

文章の意味をグループで考えたり、

少しずつではあるけれど、

学ぶ姿勢になっていく学生たち。

 

私はこのとき、今は亡き灘高校の

橋下武先生を思い出しました。

中勘助の「銀の匙」を3年間かけて

味って読む国語の授業で「奇跡の教室」として

数年前にテレビで紹介されました。

 私が読んだのは以下の本ですが、

よければ関連本は

たくさんあるので読んでみてください。

奇跡の教室 (小学館文庫)

奇跡の教室 (小学館文庫)

 

 社会の先生クロエとコラボして、

「レ・ミゼラブル」の歴史的背景を

詳しく教えて欲しいとコラボをオファー。

 

一緒にベルサイユ宮殿に校外学習に行きます。

王様の生活がどんなだったとか、

当時の服装がどんなだったとか、

実際にお城を巡りながら学びます。

 

とても楽しく有意義な1日を過ごしたフランソワは

社会の先生クロエとなんだか別れがたくいい雰囲気です。

でも、クロエ先生は結婚を約束した彼氏がいます。

 

お互いの気持ちに気づいていて、

何も言わずただキスをして別れた二人。

なんだか切なく、美しい大人の恋でした。

 

一人に向き合う勇気

 

ハイになるケーキをフランソワに食べさせた

セドゥくんという学生が軸になっているのですが、

彼がある問題を起こして退学処分になります。

 

フランソワは諦めてヤンキーの道に

突き進んでいくセドゥをなんとかして、

学校の来させようとします。

 

校長の仕事の穴をつき、

なんとか退学処分を取り消したフランソワ。

セドゥは再び学校にきて学び始めます。

 

最後に音楽の先生ともコラボして、

歌を歌うフランソワのクラスの学生たち。

家族も見にきていて、涙を流す人も。

 

そして、セドゥは最後に

「僕も先生が教えるエリート校で勉強したい。

 行けるかな?」

とフランソワに言います。

フランソワは「頑張ったら来られるよ」と答えます。

https://iwiz-movies.c.yimg.jp/c/movies/pict/c/p/bb/55/366543_004.jpg

そこで映画は終了。

エンディングは「悲しき天使」が流れます。

これがまたイイ!


悲しき天使【訳詞付】- Mary Hopkin

最後の文化祭で歌ってた歌と、

ここで「悲しき天使」が歌われる理由が知りたい……

わかったら追記します。

 

この現実は日本の未来図でもある

移民や貧困の問題はヨーロッパの問題ではなく、

今や、外国人労働者の正面きっての受け入れに

舵を切った日本の近未来の姿でもあります。

 

奇しくも、昨日、日本語教育推進法が衆議院本会議で

可決されました。

 

しかし、移民、しかも子どもたちへの

日本語教育はまだまだボランティア頼みどころか、

そのまま放置されていたりする子どもたちもいるとききます。

 

そんな子供達に公費で日本語教育を行うことは

国としての義務であると思います。

 

ただし、それを行ったからといって

ハッピーな世界が来ると思っていてもだめ。

 

世界はもっともっと複雑で

人間はもっともっとややこしいもの。

 

それを知るために本を読むんだと思うし、

それこそが教育。

 

子供たち一人一人がより良い未来を信じられるような

世界であるために、大人がしなくてはいけないことは

たくさんあるはずです。

 

まずは、大人が勉強しないといけないですね。

そう思った今日の1本でした。

 

では、また〜!

 

今までに書いた教育系映画のレビューたちです。

よければ読んでください★

 

www.wakaba-nihongo-writer.net

 

 

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