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映画レビュー・感想【あゝ荒野】居場所を求め彷徨う若者の悲哀を描く

観ると体調を崩してしまう映画というものが

存在する(もちろん褒め言葉)。

昨日観た「あゝ荒野」はそんな映画のなかでも、

最高の映画で、体調悪く、何も手につかず、

それこそ、頭に強烈なパンチをくらったのだった。

 

こんばんは。

わかばです。

 

あゝ、荒野(2017/日)

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ボクサー役の菅田将暉が吠える!『あゝ、荒野』予告編

監督:岸善幸

主演:菅田将暉

   ヤン・イクチュン

あらすじ:

2021年。少年院に入っていたことのある沢村新次(菅田将暉)は、昔の仲間でボクサーの山本裕二(山田裕貴)を恨んでいた。一方、吃音(きつおん)と赤面症に悩む二木建二(ヤン・イクチュン)は、あるとき新次と共に片目こと堀口(ユースケ・サンタマリア)からボクシングジムに誘われる。彼らは、それぞれの思いを胸にトレーニングに励み……。

2週間前に前編を見て、

「はやく後編が観たい」と思い続け、

昨日の後編公開初日の朝8時から

後編を観てきました。

前編後編通しての感想を書きます!

 

以下、ネタバレ、感想があります!

 

原作は寺山修司が唯一残した長編小説「あゝ、荒野」。

映画の舞台は2021年の東京オリンピック後の新宿。

2021年って言われるとすごく先のように思うけど、

実はすぐそこ。

毒親のもとに生まれた不幸

主人公の新次は、自衛隊員だった父を自殺で失い、

母は10歳の新次を児童福祉施設に預ける。

新次は自分を捨てた母を恨みつつ、

そこで出会った劉輝という仲間と

オレオレ詐欺をしていた。

ある日、新宿の街でトラブルに巻き込まれ、

殴り合いのケンカとなる。

その時、仲間だったはずの裕二が、

劉輝を鉄の棒で殴っていた。

裏切られて怒り心頭した新次は、

見境なく人を殴り傷つけ、

殺人未遂で少年院送りとなってしまう。

そして、3年少年院に収監されてシャバに

出てきたところから映画が始まる。

 

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もう一人の主人公建二は、

母が韓国人なので、10歳まで韓国で育つ。

母が亡くなって、父に日本に連れてこられるが、

父親が元自衛官で明らかにアル中、

ことあるごとに建二は父親に暴言を吐かれ、

殴られる。それゆえか、吃音で対人赤面症。

理髪店で働いている。

 

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二人が初めて見つけた居場所がボクシング

新次は自分を裏切った裕二を殺したいという理由で、

建二は父親から逃げるため、自分を変えるため、

ボクシングジムに入ることになる。

その初日、怪我をしているのに、(親父に殴られた)

サンドバックをパンチして、堀口に

「怪我が治ったら、お前のパンチは俺が受けてやるから」

と言われ、建二は泣いてしまう。私はこのシーンが好きだ。

居場所ができたんだと思う安心感はわかるような気がする。

新次も建二に年齢を聴き、自分より上だったので

「兄貴だな」と言って、それ以降「兄貴」と呼ぶ。

 二人はジムで寝起きを共にし、

ともに戦うことによって、絆を深めていく。

それは二人にとって初めての「人とのつながり」だった。

新次はめきめきと強くなるが、

建二は殴られる時に、目を開けることができないでいた。

 

ここまでが大体、前編なのだが、

もう息つく暇もないような駆け抜け感だった。

 

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生まれてきた星に抗う

 後半は堀口と競馬シーンから始まる。

このシーンも後半の始まりにふさわしいよいシーンだ。

原作者寺山修司も大好きだったという競馬。

「競馬というのは血統がものを言う」と新次に語る堀口。

しかし、そうでない馬もいることも語り、

「生まれてきた星に抗わないと人生つまらない」と言う。

新次は自分を捨てた母を恨んだ。

世の中に絆は多々あれど、血のつながりだけは、

生まれてきた時点で、いやがおうにも決定している。

父に母に愛されない、そんな境遇を呪う新次と建二。

しかし、ボクシングに没頭することで、

それを乗り越えようとする。

応援してくれる人もでき、ともに戦う仲間もできた。

 

ボクシングを通して何がしたいか?

新次は自分を裏切った相手にボクシングで勝つ。

しかし、まったく嬉しそうでない新次がそこにいた。

「憎むこと、恨むことで得られるものはない」

といえば、それまでなのかもしれないが、

この映画が描いているのはそんな自己啓発書に

書いてあるような生易しいものではなかった。

 

一方のバリカン(建二)は、鬼コーチの馬場に

「お前はボクシングで何がしたいんだ?

 自分を変えたいなら、上をめざせ。」と言われる。 

わたしはこのコーチの言葉が忘れられない。

ここが起点となり、建二は動き始める。

建二は新次と戦いたいと願う。

新次と戦うことで自分の存在をしめし、

新次とつながりたいと考えたからなのだ。

ゆえに、ジムを移籍する。

そこから、チャンピオン目指して

登り詰めはじめる。

 

時を同じくして、堀口の海洋拳闘クラブの

経営が立ち行かなくなる。

孤独だった青年たちが自分の居場所を得たかと思ったのも

つかのまだった。

新次は恋人だった芳子にも去られ、

ジムもなくなり、

廃人のような生活に逆戻りする。

新次にとってのボクシングとはなんなのか?

つながるという言葉の陳腐さ

ここから壮絶なラストシーンに向かっていくのだが、

自分の境遇を乗り越えるために、

ボクシングに打ち込んで、それで強くなっても、

人は何も変わらないということに気付いたとき、

哀しみのその一番底に触れたようで心が痛んだ。

 

「つながる」という言葉は劇中で何度か出てくるが、

そのなんと陳腐に聞こえることか。

人は、居場所を求めさまようものだ。

「僕はここにいる。だから、愛してほしい」

というラスト近くの建二のつぶやきは、

胸にせまる。

 

前編で裏切り者とされた裕二は、

新次に「なぜあの時、劉輝を殴ったか」

と問い詰められ、

「俺のことを、お前も劉輝も認めてくれなかった」

と答えている。

 

「認められたい」「愛されたい」

「自分を見ていてほしい」

そう切に願う心が、

それが叶わないとき、憎しみに変わる。

憎しみはやがて、自分を苦しめ始める。

そして、人は死に向かう。

 

二人の物語とパラレルで語られる

自殺サークルの話は

その象徴であるように思う。

 

あぁ、なんと哀しく切ない物語だろう。

だけど、生きていれば、

また、新しい出会いがあるし、

そこに居場所がみつかるかもしれない。

たとえ、それが永遠のものでなくても、

その繰り返しが人生、そのものなのだから。

 

では、また~。

 

これから原作読みます!

あゝ、荒野 (角川文庫)

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いつもパンフレット買わないけど、今回買っちゃいました!

 ブルーレイも買う!

あゝ、荒野 (特装版) Blu-ray BOX

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